で、一行異形のものは、鶩《あひる》の夢を踏んで、橋を渡った。
 鬼は、お桂のために心を配って来たらしい。
 演芸館の旗は、人の顔と、頭との中に、電飾に輝いた。……町の角から、館の前の広場へひしと詰《つま》って、露台に溢《あふ》れたからである。この時は、軒提灯のあと始末と、火の用心だけに家々に残ったもののほか、町を挙げてここへ詰掛けたと言って可《い》い。
 そのかわり、群集の一重《ひとえ》うしろは、道を白く引いて寂然《しん》としている。
「おう、お嬢さん……そいつを持ちます、俺の役だ。」
 赤鬼は、直ちに半助の地声であった。
 按摩の頭は、提灯とともに、人垣の群集の背後《うしろ》についた。
「もう、要らないわ、此店《ここ》へ返して、ね。」
 と言った。
「青牛よ。」
「もう。」
「生白い、いい肴《さかな》だ。釜で煮べい。」
「もう。」
 館の電飾が流るるように、町並の飾竹が、桜のつくり枝とともに颯《さっ》と鳴った。更けて山颪《やまおろし》がしたのである。
 竹を掉抜《ふるいぬ》きに、たとえば串から倒《さかさ》に幽霊の女を釜の中へ入れようとした時である。砂礫《すなつぶて》を捲《ま》いて、地
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