放《おっぱな》したも同然で、あとは、さばさばと寐覚《ねざめ》が可《い》い。
……思いつきで、幽霊は、射的店で借りた。――欣七郎は紳士だから、さすがにこれは阻《はば》んだので、かけあいはお桂さんが自分でした。毛氈《もうせん》に片膝のせて、「私も仮装をするんですわ。」令夫人といえども、下町娘《したまちッこ》だから、お祭り気は、頸脚《えりあし》に幽《かすか》な、肌襦袢《はだじゅばん》ほどは紅《くれない》に膚《はだ》を覗《のぞ》いた。……
もう容易《たやす》い。……つくりものの幽霊を真中《まんなか》に、小按摩と連立って、お桂さんが白木の両ぐりを町に鳴すと、既に、まばらに、消えたのもあり、消えそうなのもある、軒提灯の蔭を、つかず離れず、欣七郎が護《まも》って行《ゆ》く。
芸妓屋町へ渡る橋手前へ、あたかも巨寺《おおでら》の門前へ、向うから渡る地蔵の釜《かま》。
「ぼうぼう、ぼうぼう。」
「ぐらッぐらッ、ぐらッぐらッ。」
「や、小按摩が来た……出掛けるには及ばぬわ、青牛よ。」
「もう。」
と、吠《ほ》える。
「ぴい、ぷう。」
「ぼうぼう、ぼうぼう。」
「ぐらッぐらッ、ぐらッぐらッ。」
そこ
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