ぷう。」
「小一さん。」
「ぴい、ぷう。」
「大島屋の娘はね、幽霊になってしまったのよ。」
 と一歩《ひとあし》ひきさま、暗い方に隠れて待った、あの射的店の幽霊を――片目で覗いていた方のである――竹棹《たけざお》に結《ゆわ》えたなり、ずるりと出すと、ぶらりと下って、青い女が、さばき髪とともに提灯を舐《な》めた。その幽霊の顔とともに、夫人の黒髪、びん掻《かき》に、当代の名匠が本質《きじ》へ、肉筆で葉を黒漆《くろうるし》一面に、緋《ひ》の一輪椿の櫛《くし》をさしたのが、したたるばかり色に立って、かえって打仰いだ按摩の化ものの真向《まっこう》に、一太刀、血を浴びせた趣があった。
「一所に、おいでなさいな、幽霊と。」
 水ぶくれの按摩の面《おもて》は、いちじくの実の腐れたように、口をえみわって、ニヤリとして、ひょろりと立った。
 お桂さんの考慮《かんがえ》では、そうした……この手段を選んで、小按摩を芸妓屋《げいしゃや》町の演芸館。……仮装会の中心点へ送込もうとしたのである。そうしてしまえば、ねだ下、天井裏のばけものまでもない……雨戸の外の葉裏にいても気味の悪い芋虫を、銀座の真中《まんなか》へ押
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