かわず》が手を※[#「てへん+爭」、第4水準2−13−24]《もが》くがごとく、指で捜《さぐ》りながら、松の枝に提灯を釣すと、謙斎が饒舌《しゃべ》った約束のごとく、そのまま、しょぼんと、根に踞《かが》んで、つくばい立《だち》の膝の上へ、だらりと両手を下げたのであった。
「おい。一等賞君、おい一杯飲もう。一所に来たまえ。」
 その時だ。
「ぴい、ぷう。」
 笛を銜《くわ》えて、唇を空ざまに吹上げた。
「分ったよ、一等賞だよ。」
「ぴい、ぷう。」
「さ、祝杯を上げようよ。」
「ぴい、ぷう。」
 空嘯《そらうそぶ》いて、笛を鳴す。
 夫人が手招きをした。何が故に、そのうしろに竜女の祠《ほこら》がないのであろう、塚の前に面影に立った。
「ちえッ」舌うちとともに欣七郎は、強情、我慢、且つ執拗《しつよう》な小按摩を見棄てて、招かれた手と肩を合せた、そうして低声《こごえ》をかわしかわし、町の祭の灯《ともしび》の中へ、並んでスッと立去った。
「ぴい、ぷう。……」

「小一さん。」
 しばらくして、引返して二人来た時は、さきにも言った、欣七郎が地蔵の前に控えて、夫人自ら小按摩に対したのである。
「ぴい、
前へ 次へ
全48ページ中38ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング