赤鬼が、
「ぐらッぐらッ、ぐらッぐらッ。」
 と陰気な合言葉で、国境の連山を、黒雲に背負《しょ》って顕《あらわ》れた。
 青鬼が、
「ぼうぼう、ぼうぼう、」
 赤鬼が、
「ぐらッぐらッ、ぐらッぐらッ。」
 よくない洒落《しゃれ》だ。――が、訳がある。……前に一度、この温泉町《ゆのまち》で、桜の盛《さかり》に、仮装会を催した事があった。その時、墓を出た骸骨《がいこつ》を装って、出歯《でっぱ》をむきながら、卒堵婆《そとば》を杖について、ひょろひょろ、ひょろひょろと行列のあとの暗がりを縫って歩行《ある》いて、女|小児《こども》を怯《おび》えさせて、それが一等賞になったから。……
 地獄の釜も、按摩の怨念《おんねん》も、それから思着いたものだと思う。一国の美術家でさえ模倣を行《や》る、いわんや村の若衆《わかしゅ》においてをや、よくない真似をしたのである。
「ぼうぼう、ぼうぼう。」
「ぐらッぐらッ、ぐらッぐらッ。」
「あら、半助だわ。」
 と、ひとりの若い女中が言った。
 石を、青と赤い踵《かかと》で踏んで抜けた二頭の鬼が、後《うしろ》から、前を引いて、ずしずしずしと小戻りして、人立《ひとだち》
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