走るから、推《お》されて蹈《ふみ》はずす憂《うれい》があるので、群集は残らず井菊屋の片側に人垣を築いたため、背後《うしろ》の方の片袖の姿斜めな夫人の目には、山から星まじりに、祭屋台が、人の波に乗って、赤く、光って流れた。
その影も、灯《ともしび》も、犬が三匹ばかり、まごまご殿《しんがり》しながらついて、川端の酸漿提灯の中へぞろぞろと黒くなって紛れたあとは、彳《たたず》んで見送る井菊屋の人たちばかり。早や内へ入るものがあって、急に寂しくなったと思うと、一足|後《おく》れて、暗い坂から、――異形《いぎょう》なものが下りて来た。
疣々《いぼいぼ》打った鉄棒《かなぼう》をさし荷《にな》いに、桶屋も籠屋《かごや》も手伝ったろう。張抜《はりぬき》らしい真黒《まっくろ》な大釜《おおがま》を、蓋《ふた》なしに担いだ、牛頭《ごず》、馬頭《めず》の青鬼、赤鬼。青鬼が前へ、赤鬼が後棒《あとぼう》で、可恐《おそろ》しい面を被《かぶ》った。縫いぐるみに相違ないが、あたりが暗くなるまで真に迫った。……大釜の底にはめらめらと真赤《まっか》な炎を彩って燃《もや》している。
青鬼が、
「ぼうぼう、ぼうぼう、」
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