塚に沿った松なればこそ、夜泣松と言うのである。――昼でも泣く。――仮装した小按摩の妄念は、その枝下、十三地蔵とは、間に水車の野川が横に流れて石橋の下へ落ちて、香都良川へ流込む水筋を、一つ跨《また》いだ処に、黄昏《たそがれ》から、もう提灯を釣《つる》して、裾《すそ》も濡れそうに、ぐしゃりと踞《しゃが》んでいる。
今度出来た、谷川に架けた新石橋は、ちょうど地蔵の斜向《すじむか》い。でその橋向うの大旅館の庭から、仮装は約束のごとく勢揃をして、温泉の町へ入ったが、――そう云ってはいかがだけれど、饑饉|年《どし》の記念だから、行列が通るのに、四角な行燈《あんどん》も肩を円くして、地蔵前を半輪《はんわ》によけつつ通った。……そのあとへ、人魂《ひとだま》が一つ離れたように、提灯の松の下、小按摩の妄念は、列の中へ加わらずに孤影|※[#「(火+火)/訊のつくり」、第4水準2−79−80]然《けいぜん》として残っている。……
ぬしは分らない、仮装であるから。いずれ有志の一人と、仮装なかまで四五人も誘ったが、ちょっと手を引張《ひっぱ》っても、いやその手を引くのが不気味なほど、正《しょう》のものの身投げ按
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