はこの川に多い鶺鴒《せきれい》が、仮装したものではない。
 泰西の夜会の例に見ても、由来仮装は夜のものであるらしい。委員と名のる、もの識《しり》が、そんな事は心得た。行列は午後五時よりと、比羅に認《したた》めてある。昼はかくれて、不思議な星のごとく、颯《さっ》と夜《よ》の幕を切って顕《あらわ》れる筈《はず》の処を、それらの英雄|侠客《きょうかく》は、髀肉《ひにく》の歎《たん》に堪えなかったに相違ない。かと思えば、桶屋《おけや》の息子の、竹を削って大桝形《おおますがた》に組みながら、せっせと小僧に手伝わして、しきりに紙を貼《は》っているのがある。通りがかりの馬方と問答する。「おいらは留《や》めようと思ったが、この景気じゃあ、とても引込《ひっこ》んでいられない。」「はあ、何に化けるね。」「凧《たこ》だ……黙っていてくれよ。おいらが身体《からだ》をそのまま大凧に張って飛歩行《とびある》くんだ。両方の耳にうなりをつけるぜ。」「魂消《たまげ》たの、一等賞ずらえ。」「黙っててくんろよ。」馬がヒーンと嘶《いなな》いた。この馬が迷惑した。のそりのそりと歩行《ある》き出すと、はじめ、出会ったのは緋縅の武
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