ごは何の気なしに点けておやりになりました。――さて、霞から、ずっと参れば玄関へ出られますものを、どういうものか、廊下々々を大廻りをして、この……花から雪を掛けて千鳥に縫って出ましたそうで。……井菊屋のしるしはござりますが、陰気に灯《とも》して、暗い廊下を、黄色な鼠の霜げた小按摩が、影のように通ります。この提灯が、やがて、その夜中に、釜ヶ淵の上、土手の夜泣松の枝にさがって、小一は淵へ、巌《いわ》の上に革緒《かわお》の足駄ばかり、と聞いて、お一方《ひとかた》病人が出来ました。……」
「ああ、娘さんかね。」
「それは……いえ、お優しいお嬢様の事でござります……親しく出入をしたものが、身を投げたとお聞きなされば、可哀相――とは、……それはさ、思召したでござりましょうが、何の義理|時宜《じんぎ》に、お煩いなさって可《よ》いものでござります。病みつきましたのは、雪にござった、独身の御老体で。……
京阪地《かみがた》の方だそうで、長逗留《ながとうりゅう》でござりました。――カチリ、」
と言った。按摩には冴《さ》えた音。
「カチリ、へへッへッ。」
とベソを掻いた顔をする。
欣七郎は引入れられて
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