りますな。――後での話でござりますが。」
「おやおや、しかし、ありそうな事だ。」
「はい、その提灯を霞の五番へ持って参じました、小按摩が、逆戻りに。――(お桂|様《さん》。)うちのものは、皆お心安だてにお名を申して呼んでおります。そこは御大家でも、お商人《あきんど》の難有《ありがた》さで、これがお邸《やしき》づら……」
嚔《くしゃみ》の出損《でそこな》った顔をしたが、半間《はんま》に手を留めて、腸《はらわた》のごとく手拭《てぬぐい》を手繰り出して、蝦蟇口《がまぐち》の紐に搦《から》むので、よじって俯《うつ》むけに額を拭《ふ》いた。
意味は推するに難くない。
欣七郎は、金口《きんぐち》を点《つ》けながら、
「構わない構わない、俺も素町人だ。」
「いえ、そういうわけではござりませんが。――そのお桂様に、(暗闇《くらやみ》の心細さに、提灯を借りましたけれど、盲に何が見えると、帳場で笑いつけて火を貸しません、どうぞお慈悲……お情《なさけ》に。)と、それ、不具《かたわ》根性、僻《ひが》んだ事を申しますて。お上さんは、もうお床で、こう目をぱっちりと見てござったそうにござります。ところで、お娘
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