なり、手代なり、……頑固で、それでちょっと剽軽《ひょうきん》な、御存じかも知れません。威勢のいい、」
「あれだね。」
と欣七郎が云うと、お桂は黙って頷《うなず》いた。
「半助がそう申すと、びしゃびしゃと青菜に塩になりましたっけが、(それでは外様《ほかさま》を伺います。)(ああ、行って来な。内じゃお座敷を廻らせないんだが、お前の事だ。)もっとも、(霞の五番さん)大島屋さんのお上さんの他《ほか》には、好んで揉《も》ませ人《て》はござりません。――どこをどう廻りましたか、宵に来た奴が十時過ぎ、船を漕《こ》いだものが故郷へ立帰ります時分に、ぽかんと帳場へ戻りまして、畏《かしこま》って、で、帰りがけに、(今夜は闇《やみ》でございます、提灯を一つ。)と申したそうで、(おい、来た。)村の衆が出入りの便宜同様に、気軽に何心なく出したげで。――ここがその、少々変な塩梅《あんばい》なのでござりまして、先が盲だとも、盲だからとも、乃至《ないし》、目あきでないとも、そんな事は一向心着かず……それには、ひけ頃で帳場もちょっとごたついていたでもござりましょうか。その提灯に火を点《とも》してやらなかったそうでござ
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