でござりますで。一つ部屋で、お傍にでも居ましたら、もう、それだけで、生命《いのち》も惜しゅうはござりますまい。まして、人間のしいなでも、そこは血気《ちのけ》の若い奴《やつ》でござります。死ぬのは本望でござりましたろうが、もし、それや、これやで、釜ヶ淵へ押《おっ》ぱまったでござりますよ。」
 お桂のちょっと振返った目と合って、欣七郎は肩越に按摩を見た。
「じゃあ、なにかその娘さんに、かかり合いでもあったのかね。」

       二

「飛んだ事を、お嬢さんは何も御存じではござりません。ただ、死にます晩の、その提灯《ちょうちん》の火を、お手ずから点《つ》けて遣わされただけでござります。」
 お桂はそのまま机に凭《よ》った、袖が直って、八口《やつくち》が美しい。
「その晩も、小一按摩が、御当家へ、こッつりこッつりと入りまして、お帳場へ、精霊棚《しょうりょうだな》からぶら下りましたように。――もっとももう時雨の頃で――その瓢箪《ひょうたん》頭を俯向《うつむ》けますと、(おい、霞の五番さんじゃ、今夜御療治はないぞ。)と、こちらに、年久しい、半助と云う、送迎《おくりむかえ》なり、宿引《やどひき》
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