と折れて、ポンと尻持《しりもち》を支《つ》いた体《てい》に、踵《かかと》の黒いのを真向《まむ》きに見せて、一本ストンと投出《なげだ》した、……恰《あたか》も可《よし》、他《ほか》の人形など一所《いっしょ》に並んだ、中に交《まじ》つて、其処《そこ》に、木彫にうまごやしを萌黄《もえぎ》で描《か》いた、舶来ものの靴が片隻《かたっぽ》。
 で、肩を持たれたまゝ、右の跛《びっこ》の黒《くろ》どのは、夫人の白魚《しらうお》の細い指に、ぶらりと掛《かか》つて、一《ひと》ツ、ト前のめりに泳いだつけ、臀《いしき》を揺《ゆす》つた珍《ちん》な形で、けろりとしたもの、西瓜をがぶり。
 熟《じっ》と視《み》て、
「まあ……」
 離すと、可《い》いことに、あたり近所の、我朝《わがちょう》の姉様《あねさま》を仰向《あおむけ》に抱込《だきこ》んで、引《ひっ》くりかへりさうで危《あぶな》いから、不気味らしくも手からは落さず……
「島か、光《みつ》か、払《はたき》を掛けて――お待ちよ、否《いいえ》、然《そ》う/\……矢張《やっぱり》これは、此の話の中で、鰐《わに》に片足|食切《くいき》られたと云ふ土人か。人殺しをして、
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