やうな窓から、雲と水色の空とを観《み》ながら、徒然《つれづれ》にさしまねいて、蒼空《あおぞら》を舞ふ遠方《おちかた》の伽藍《がらん》の鳩を呼んだ。――真白なのは、掌《てのひら》へ、紫《むらさき》なるは、かへして、指環の紅玉《ルビイ》の輝く甲《こう》へ、朱鷺色《ときいろ》と黄の脚《あし》して、軽く来て留《とま》るまでに馴《な》れたのであつた。
「それ/\、お冠の通り、嘴《くちばし》が曲つて来ました。目をくる/\……でも、矢張《やっぱ》り可愛《かわい》いねえ。」
 と艶麗《あでやか》に打傾《うちかたむ》き、
「其の替り、今ね、寝ながら本を読んで居て、面白い事があつたから、お話をして上げようと思つて、故々《わざわざ》遊びに来たんぢやないか。途中が寒かつたよ。」
 と、犇《ひし》と合はせた、両袖《りょうそで》堅《かた》く緊《しま》つたが、溢《こぼ》るゝ蹴出《けだ》し柔かに、褄《つま》が一靡《ひとなび》き落着いて、胸を反《そ》らして、顔を引き、
「否《いいえ》、まだ出して上げません。……お話を聞かなくツちや……でないと袖を啣《くわ》へたり、乗つたり、悪戯《いたずら》をして邪魔《じゃま》なんですも
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