せたまゝ、気に入りの小間使さへ遠ざけて、ハタと扉《ひらき》を閉《とざ》した音が、谺《こだま》するまで響いたのであつた。
夫人は、さて唯《ただ》一人、壁に寄せた塗棚《ぬりだな》に据置《すえお》いた、籠《かご》の中なる、雪衣《せつい》の鸚鵡《おうむ》と、差向《さしむか》ひに居るのである。
「御機嫌よう、ほゝゝ、」
と莟《つぼみ》を含んだ趣《おもむき》して、鸚鵡の雪に照添《てりそ》ふ唇……
籠は上に、棚の丈《たけ》稍《やや》高ければ、打仰《うちあお》ぐやうにした、眉《まゆ》の優しさ。鬢《びん》の毛はひた/\と、羽織の襟《えり》に着きながら、肩も頸《うなじ》も細かつた。
「まあ、挨拶《あいさつ》もしないで、……黙然《だんまり》さん。お澄ましですこと。……あゝ、此の間《あいだ》、鳩《はと》にばツかり構つて居たから、お前さん、一寸《ちょいと》お冠《かんむり》が曲りましたね。」
此の五日《いつか》六日《むいか》、心持《こころもち》煩《わずら》はしければとて、客にも逢《あ》はず、二階の一室《ひとま》に籠りツ切《きり》、で、寝起《ねおき》の隙《ひま》には、裏庭の松の梢《こずえ》高き、城のもの見の
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