い香《こう》の薫《かおり》が残つたと。……
此の船中に話したがね、船頭はじめ――白痴《たわけ》め、婦《おんな》に誘はれて、駈落《かけおち》の真似がしたいのか――で、船は人ぐるみ、然《そ》うして奈落へ逆《さかさま》に落込《おちこ》んだんです。
まあ、何と言はれても、美しい人の言ふことに、従へば可《よ》かつたものをね。
七年|幾月《いくつき》の其の日はじめて、世界を代へた天竺《てんじく》の蕃蛇剌馬《ばんじゃらあまん》の黄昏《たそがれ》に、緋の色した鸚鵡《おうむ》の口から、同じ言《ことば》を聞いたので、身を投臥《なげふ》して泣いた、と言ひます。
微妙《いみじ》き姫神《ひめがみ》、余りの事の霊威に打《うた》れて、一座皆|跪《ひざまず》いて、東の空を拝みました。
言ふにも及ばない事、奴隷《どれい》の恥も、苦《くるし》みも、孫一は、其の座で解《と》けて、娘の哥鬱賢《こうつけん》が贐《はなむけ》した其の鸚鵡を肩に据《す》ゑて。」
と籠《かご》を開《あ》ける、と飜然《ひらり》と来た、が、此は純白|雪《ゆき》の如きが、嬉しさに、颯《さっ》と揚羽《あげは》の、羽裏《はうら》の色は淡く黄に、嘴《
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