つと見着けたのが鬼《おに》ヶ|島《しま》、――魔界だわね。
 然《そ》うして地《つち》を見てからも、島の周囲《まわり》に、底から生えて、幹《みき》ばかりも五|丈《じょう》、八丈、すく/\と水から出た、名も知れない樹が邪魔に成つて、船を着ける事が出来ないで、海の中の森の間《あいだ》を、潮あかりに、月も日もなく、夜昼《よるひる》七日《なのか》流れたつて言ふんですもの……
 其の時分、大きな海鼠《なまこ》の二尺許《にしゃくばか》りなのを取つて食べて、毒に当つて、死なないまでに、こはれごはれの船の中で、七顛八倒《しちてんばっとう》の苦痛《くるしみ》をしたつて言ふよ。……まあ、どんな、心持《こころもち》だつたらうね。渇くのは尚《な》ほ辛《つら》くつて、雨のない日の続く時は帆布《ほぬの》を拡げて、夜露《よつゆ》を受けて、皆《みんな》が口をつけて吸つたんだつて――大概唇は破れて血が出て、――助かつた此の話の孫一《まごいち》は、余《あんま》り激しく吸つたため、前歯二つ反《そ》つて居たとさ。……
 お聞き、島へ着くと、元船《もとぶね》を乗棄《のりす》てて、魔国《まこく》とこゝを覚悟して、死装束《しにしょ
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