ト/\と音信《おとず》れた。
「何《ど》う?多分|其《そ》の我まゝな駈落ものの、……私は子孫だ、と思ふんだがね。……御覧の通りだからね、」
 と、霜《しも》の冷《つめた》い色して、
「でも、駈落ちをしたお庇《かげ》で、無事に生命《いのち》を助かつたんです。思つた同士は、道行《みちゆ》きに限るのねえ。」
 と力なささうに、疲れたらしく、立姿《たちすがた》のなり、黒棚《くろだな》に、柔かな袖《そで》を掛けたのである。
「あとの大勢つたら、其のあくる日から、火の雨、火の風、火の浪《なみ》に吹放《ふきはな》されて、西へ――西へ――毎日々々、百日と六日の間《あいだ》、鳥の影一つ見えない大灘《おおなだ》を漂うて、お米を二|升《しょう》に水一|斗《と》の薄粥《うすがゆ》で、二十人の一日の生命《いのち》を繋《つな》いだのも、はじめの内。くまびきさへ釣《つ》れないもの、長い間《あいだ》に漁したのは、二尋《ふたひろ》ばかりの鱶《ふか》が一|疋《ぴき》。さ、其を食べた所為《せい》でせう、お腹《なか》の皮が蒼白《あおじろ》く、鱶《ふか》のやうにだぶだぶして、手足は海松《みる》の枝の枯れたやうになつて、漸《や》
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