うぞく》に、髪を撫着《なでつ》け、衣類を着換《きか》へ、羽織を着て、紐《ひも》を結んで、てん/″\が一腰《ひとこし》づゝ嗜《たしな》みの脇差《わきざし》をさして上陸《あが》つたけれど、飢《うえ》渇《かつ》ゑた上、毒に当つて、足腰も立たないものを何《ど》うしませう?……」

        六

「三百人ばかり、山手《やまて》から黒煙《くろけぶり》を揚げて、羽蟻《はあり》のやうに渦巻いて来た、黒人《くろんぼ》の槍《やり》の石突《いしづき》で、浜に倒れて、呻吟《うめ》き悩む一人々々が、胴、腹、腰、背、コツ/\と突《つつ》かれて、生死《いきしに》を験《ため》されながら、抵抗《てむかい》も成らず裸《はだか》にされて、懐中ものまで剥取《はぎと》られた上、親船《おやぶね》、端舟《はしけ》も、斧《おの》で、ばら/\に摧《くだ》かれて、帆綱《ほづな》、帆柱《ほばしら》、離れた釘は、可忌《いまわし》い禁厭《まじない》、可恐《おそろし》い呪詛《のろい》の用に、皆《みんな》奪《と》られて了《しま》つたんです。……
 あとは残らず牛馬《うしうま》扱ひ。それ、草を毟《むし》れ、馬鈴薯《じゃがいも》を掘れ、貝を突
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