んろ》の瓦斯《がす》は颯々《さっさつ》と霜夜《しもよ》に冴《さ》えて、一層|殷紅《いんこう》に、且《か》つ鮮麗《せんれい》なるものであつた。
「影を映した時でした……其の間《ま》に早《は》や用の趣《おもむき》を言ひ聞かされた、髪の長い、日本の若い人の、熟《じっ》と見るのと、瞳《ひとみ》を合せたやうだつたつて……
若い人の、窶《やつ》れ顔に、血の色が颯《さっ》と上《のぼ》つて、――国々島々、方々が、いづれもお分りのないとある、唯《ただ》一句、不思議な、短かい、鸚鵡の声と申すのを、私《わたくし》が先へ申して見ませう……もしや?……
――港で待つよ――
と、恁《こ》う申すのではござりませぬか、と言ひも未《ま》だ果てなかつたに、島の毒蛇《どくじゃ》の呼吸《いき》を消して、椰子《やし》の峰、鰐《わに》の流《ながれ》、蕃蛇剌馬《ばんじゃらあまん》の黄色な月も晴れ渡る、世にも朗《ほがら》かな涼《すず》しい声して、
――港で待つよ――
と、羽《はね》を靡《なび》かして、其の緋鸚鵡《ひおうむ》が、高らかに歌つたんです。
釵《かんざし》の揺《ゆら》ぐ気勢《けはい》は、彼方《あちら》に、お嬢さん
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