《こさ》吹く風は肩に乱れた、身は痩《や》せ、顔は窶《やつ》れけれども、目鼻立ちの凜《りん》として、口許《くちもと》の緊《しま》つたのは、服装《なり》は何《ど》うでも日本《やまと》の若草《わかくさ》。黒人《くろんぼ》の給仕に導かれて、燈籠《とうろう》の影へ顕《あらわ》れたつけね――主人の用に商売《あきない》ものを運ぶ節は、盗賊《どろぼう》の用心に屹《きっ》と持つ……穂長《ほなが》の槍《やり》をねえ、こんな場所へは出つけないから、突立《つきた》てたまゝで居るんぢやありませんか。
 和蘭陀《オランダ》のは騒がなかつたが、蕃蛇剌馬《ばんじゃらあまん》の酋長《しゅうちょう》は、帯を手繰《たぐ》つて、長剣の柄《つか》へ手を掛けました。……此のお夥間《なかま》です……人の売買《うりかい》をする連中《れんじゅう》は……まあね、槍は給仕が、此も慌《あわ》てて受取つたつて。
 静かに進んで礼をする時、牡丹《ぼたん》に八《や》ツ橋《はし》を架《か》けたやうに、花の中を廻り繞《めぐ》つて、奥へ続いた高楼《たかどの》の廊下づたひに、黒女《くろめ》の※[#「女+必」、第4水準2−5−45]《こしもと》が前後《あと
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