聞くと、人の好《い》い、気の優しい、哥太寛の御新姐《ごしんぞ》が、おゝ、と云つて、袖《そで》を開《ひら》く……主人もはた、と手を拍《う》つて、」
 とて、夫人は椅子なる袖に寄せた、白鞘《しらさや》を軽く圧《おさ》へながら、
「先刻《せんこく》より御覧に入れた、此なる剣《つるぎ》、と哥太寛の云つたのが、――卓子《テエブル》の上に置いた、蝋塗《ろうぬり》、鮫鞘巻《さめざやまき》、縁頭《ふちがしら》、目貫《めぬき》も揃《そろ》つて、金銀造りの脇差《わきざし》なんです――此の日本の剣《つるぎ》と一所《いっしょ》に、泯汰脳《ミンダネオ》の土蛮《どばん》が船に積んで、売りに参つた日本人を、三年|前《さき》に買取《かいと》つて、現に下僕《かぼく》として使ひまする。が、傍《そば》へも寄せぬ下働《したばたらき》の漢《おとこ》なれば、剣《つるぎ》は此処《ここ》にありながら、其の事とも存ぜなんだ。……成程《なるほど》、呼べ、と給仕を遣《や》つて、鸚鵡を此へ、と急いで嬢に、で、※[#「女+必」、第4水準2−5−45]《こしもと》を立たせたのよ。
 たゞ玉《たま》の緒《お》のしるしばかり、髪は糸で結んでも、胡沙
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