ね》る事も出来ぬ。ところが、此寺《ここ》の門前に一軒、婆さんと十四五の娘の親子二人暮しの駄菓子屋があった、その娘が境内《けいない》の物置に入るのを誰かがちらりと見た、間もなく、その物置から、出火したので、早速《さっそく》馳付《かけつ》けたけれども、それだけはとうとう焼けた。この娘かと云うので、拷問めいた事までしたが、見たものの過失で、焼けはじめの頃自分の内に居た事が明《あきらか》に分って、未《いま》だに不思議な話になっているそうである。初めに話した静岡の家《うち》にも、矢張《やっぱり》十三四の子守娘が居たと云う、房州にも矢張《やっぱり》居る、今のにも、娘がついて居る、十三四の女の子とは何だかその間に関係があるらしくなる。これは如何《どう》いうものか、解らない。昔物語にはこんな家《うち》の事を「くだ」付き家《いえ》と称して、恐《こ》わがっている。「くだ」というのは狐の様で狐にあらず、人が見たようで、見ないような一種の動物だそうだ。
猫の面《つら》で、犬の胴、狐の尻尾《しりっぽ》で、大《おおき》さは鼬《いたち》の如く、啼声《なくこえ》鵺《ぬえ》に似たりとしてある。追《おっ》て可考《かんがうべし》。
底本:「文豪怪談傑作選・特別篇 百物語怪談会」ちくま文庫、筑摩書房
2007(平成19)年7月10日第1刷発行
底本の親本:「怪談会」柏舎書楼
1909(明治42)年発行
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2007年11月19日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全3ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング