の白き、痩《や》せたる女、差俯向《さしうつむ》きて床の上に起直りていたり。枕許《まくらもと》に薬などあり、病人なりしなるべし。
思わずも悚然《ぞっと》せしが、これ、しかしながら、この頃のにはあらじかし。
今は竹の皮づつみにして汽車の窓に売子出でて旅客に鬻《ひさ》ぐ、不思議の商標《しるし》つけたるが彼《か》の何某屋《なにがしや》なり。上品らしく気取りて白餡小さくしたるものは何の風情もなし、すきとしたる黒餡の餅、形も大《おおい》に趣あるなり。
夏の水
松任《まっとう》より柏野水島などを過ぎて、手取川を越ゆるまでに源平島と云う小駅あり。里の名に因《ちな》みたる、いずれ盛衰記の一条《ひとくだり》あるべけれど、それは未《いま》だ考えず。われ等がこの里の名を聞くや、直ちに耳の底に響き来《きた》るは、松風玉を渡るがごとき清水の声なり。夏《げ》の水とて、北国によく聞ゆ。
春と冬は水|湧《わ》かず、椿の花の燃ゆるにも紅《べに》を解くばかりの雫《しずく》もなし。ただ夏至《げし》のはじめの第一|日《じつ》、村の人の寝心にも、疑いなく、時刻も違《たが》えず、さらさらと白銀《しろがね》の糸
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