え、叔母さん。」
「まつたくさ、私もをかしいと思つて居るほどなんだよ、氣の所爲だわね、……氣の所爲といへば、新ちやんどう、あの一齊に鳴く聲が、活東さんといやしない?……
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かつと、かつと、
  かつと、……
[#ここで字下げ終わり]
 それ、揃つて、皆して……」
「むゝ、聞こえる、――かつと、かつと――か、然ういへば。――成程これはおもしろい。」
 女房のいふことなぞは滅多に應といつた事のない奴が、これでは濟むまい、蛙の聲を小玉小路で羨んだ、その昔の空腹を忘却して、圖に乘氣味に、田の縁へ、ぐつと踞んで聞込む氣で、いきなり腰を落しかけると、うしろ斜めに肩を並べて廂の端を借りて居た運轉手の帽子を傘で敲いて驚いたのである。
「あゝ、これは何うも。」
 其の癖、はじめは運轉手が、……道案内の任がある、且つは婦連のために頭に近い梟の魔除の爲に、降るのに故と臺から出て、自動車に引添つて頭から黒扮裝の細身に腕を組んだ、一寸探偵小説のやみじあひの※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]繪に似た形で屹として彳んで居たものを、暗夜の畷の寂しさに、女連が
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