姿を、立花がやがて物語った現《うつつ》の境の幻の道を行《ゆ》くがごとくに感じて、夫人は粛然として見送りながら、遥《はるか》に美術家の前程を祝した、誰も知らない。
 ただ夫人は一夜《ひとよ》の内に、太《いた》く面《おも》やつれがしたけれども、翌日《あくるひ》、伊勢を去る時、揉合《もみあ》う旅籠屋《はたごや》の客にも、陸続たる道中にも、汽車にも、かばかりの美女はなかったのである。
[#地から1字上げ]明治三十六(一九〇三)年五月



底本:「泉鏡花集成4」ちくま文庫、筑摩書房
   1995(平成7)年10月24日第1刷発行
底本の親本:「鏡花全集 第七卷」岩波書店
   1942(昭和17)年7月22日発行
※誤植が疑われる箇所を、底本の親本を参照してあらためました。
入力:門田裕志
校正:土屋隆
2006年1月30日作成
青空文庫作成ファイル:
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