を恁《もた》せて、観念した顔《かんばせ》の、気高きまでに莞爾《にっこ》として、
「ああ、こうやって一思いに。」
「夫人《おくさん》、おくれはせんですよ。」と、顔につららを注いで言った。打返しがまたざっと。
「※[#「さんずい+散」、261−9]《しぶき》がかかる、※[#「さんずい+散」、261−9]がかかる、危いぞ。」
 と、空から高く呼《とば》わる声。
 靄《もや》が分れて、海面《うなづら》に兀《こつ》として聳《そび》え立った、巌《いわ》つづきの見上ぐる上。草蒸す頂に人ありて、目の下に声を懸けた、樵夫《きこり》と覚しき一個《ひとり》の親仁《おやじ》。面《おもて》長く髪の白きが、草色の針目衣《はりめぎぬ》に、朽葉色《くちばいろ》の裁着《たッつけ》穿《は》いて、草鞋《わらんじ》を爪反《つまぞ》りや、巌端《いわばな》にちょこなんと平胡坐《ひらあぐら》かいてぞいたりける。
 その岩の面《おも》にひたとあてて、両手でごしごし一|挺《ちょう》の、きらめく刃物を悠々と磨《と》いでいたり。
 磨ぎつつ、覗《のぞ》くように瞰下《みおろ》して、
「上へ来さっしゃい、上へ来さっしゃい、浪に引かれると危いわ
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