み》に、処々|艶《つや》あるよう、月の影に、雨戸は寂《しん》と連《つらな》って、朝顔の葉を吹く風に、さっと乱れて、鼻紙がちらちらと、蓮歩《れんぽ》のあとのここかしこ、夫人をしとうて散々《ちりぢり》なり。

        *     *     *     *     *

 あと白浪《しらなみ》の寄せては返す、渚《なぎさ》長く、身はただ、黄なる雲を蹈《ふ》むかと、裳《もすそ》も空に浜辺を引かれて、どれだけ来たか、海の音のただ轟々《ごうごう》と聞ゆるあたり。
「ここじゃ、ここじゃ。」
 どしりと夫人の横倒《よこたおし》。
「来たぞや、来たぞや、」
「今は早や、気随、気ままになるのじゃに。」
 何処《いずこ》の果《はて》か、砂の上。ここにも船の形の鳥が寝ていた。
 ぐるりと三人、三《み》つ鼎《がなえ》に夫人を巻いた、金の目と、銀の目と、紅糸《べにいと》の目の六つを、凶《あし》き星のごとくキラキラと砂《いさご》の上に輝かしたが、
「地蔵菩薩《じぞうぼさつ》祭れ、ふァふァ、」と嘲笑《あざわら》って、山の峡《かい》がハタと手拍子。
「山の峡は繁昌《はんじょう》じゃ、あはは、」と洲《す》の股《ま
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