事いの。
 少《わか》い身そらに、御奇特な、たとえ御自分の心からではないとして、その先生様の思召《おぼしめし》に嬉し喜んで従わせえましたのが、はや菩薩の御弟子《みでし》でましますぞいの。
 七歳の竜女とやらじゃ。
 結縁《けちえん》しょう。年をとると気忙《きぜわ》しゅうて、片時もこうしてはおられぬわいの、はやくその美しいお姿を拝もうと思うての。それで、はい、お婆さん、えッちらえッちら出て来たのじゃ。」
「おう、されば、これから二つ目へおざるかや。」
「さればいの、行くわいの。」
「ござれござれ。私《わし》も店をかたづけたら、路ばたへ出て、その奥様の、帰らしゃますお顔を拝もうぞいの。」
 赤目の嫗《おうな》は自から深く打頷《うちうなず》いた。

       十二

 時に色の青い銀の目の嫗《おうな》は、対手《あいて》の頤《おとがい》につれて、片がりながら、さそわれたように頷《うなず》いたが、肩を曲げたなり手を腰に組んだまま、足をやや横ざまに左へ向けた。
「帰途《かえり》のほどは宵月《よいづき》じゃ、ちらりとしたらお姿を見はずすまいぞや。かぶりものの中、気をつけさっしゃれ。お方くらい、美
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