るも、決して見出すこと能はざるに至るや必《ひつ》せり。然れども斯の如きは社会に秩序ありて敢《あへ》て許さず。
あゝ/\結婚を以て愛の大成したるものとなすは、大《おほい》なるあやまりなるかな。世人結婚を欲することなくして、愛を欲せむか、吾人は嫦娥《じやうが》を愛することを得《う》、嫦娥は吾人を愛することを得、何人《なんぴと》が何人を愛するも妨げなし、害なし、はた乱もなし。匈奴《きようど》にして昭君《せうくん》を愛するも、昭君|豈《あに》馬に乗るの怨《うらみ》あらむや。其《その》愀然《しうぜん》として胡国《ここく》に嫁《とつ》ぎたるもの、匈奴が婚を強《し》ひたるに外《ほか》ならず。然も婚姻に因りて愛を得むと欲するは、何《なん》ぞ、水中の月を捉《とら》へむとする猿猴《ゑんこう》の愚と大《おほい》に異なるあらむや。或《あるひ》は婚姻を以て相互の愛を有形にたしかむる証拠とせむか。其愛の薄弱なる論ずるに足らず。憚《はゞか》りなく直言すれば、婚姻は蓋《けだ》し愛を拷問して我に従はしめむとする、卑怯《ひけふ》なる手段のみ。それ然り、然れどもこはただ婚姻の裏面をいふもの、其表面に至りては吾人が国家を造
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