かれて、雛妓の小《こ》とみ、弟が、かわいい名の小次郎、ともに、杖まで戸惑いしてついて来て、泣いていた、盲目《めくら》の爺さんが、竹の杖を、お光の手に、手さぐりで握らせるようにして、
「持たっしゃれ、縋らっしゃれ。ありがたい仏様が見えるぞい。」
「ああい、見えなくなった目でも、死ねば仏様が見られるかね。」
「おお、見られるとも、のう。ありがたや阿弥陀《あみだ》様。おありがたや親鸞《しんらん》様も、おありがたや蓮如《れんにょ》様も、それ、この杖に蓮華の花が咲いたように、光って輝いて並んでじゃ。さあ、見さっしゃれ、拝まっさしゃれ。なま、なま、なま、なま、なま。」
「そんなものは見とうない。」
 と、ツト杖を向うへ刎《は》ねた。
「私は死んでも、旦那さんの傍《そば》に居て、旦那さんの顔を見るんだよ。」
「勿体ないぞ。」
 と口のうちで呟《つぶや》いて、爺《おやじ》が、黒い幽霊のように首を伸《のば》して、杖に縋って伸上って、見えぬ目を上《うわ》ねむりに見据えたが、
「うんにゃ、道理《もっとも》じゃ。俺《おら》も阿弥陀仏より、御開山より、娘の顔が見たいぞいの。」
 と言うと、持った杖をハタと擲《な
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