心得て、もの優しい宿の主人も、更《あらた》めて挨拶に来たので、大勢送出す中を、学士の近江屋を発程《た》ったのは、同じ夜《よ》の、実は、八時頃であった。
勿論、小春が送ろうと言ったが、さっきの今で、治兵衛坊主に対しても穏《おだやか》でない、と留めて、人目があるから、石屋が石を切った処、と心づもりの納屋の前を通る時、袂《たもと》を振切る。……
お光が中くらいな鞄《かばん》を提げて、肩をいからすように、大跨《おおまた》に歩行《ある》いて、電車の出発点まで真直《まっす》ぐに送って来た。
道は近い、またすぐに出る処であった。
「旦那さん、蚤《のみ》にくわれても、女《あま》ッ子は可哀相だと言ったが、ほんとかね。」
停車|場《じょう》の人ごみの中で、だしぬけに大声でぶッつけられたので、学士はその時少なからず逡巡しつつ、黙って二つばかり点頭《うなず》いた。
「旦那さん、お願だから、私に、旦那さんの身についたものを一品《ひとしな》下んせね。鼻紙でも、手巾《ハンケチ》でも、よ。」
教授は外套を、すっと脱いだ。脱ぎはなしを、そのままお光の肩に掛けた。
このおもみに、トンと圧《お》されたように
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