暴だ。」
「ええ、家《うち》ではかえって人目に立つッて、あの、おほほ、心中《しんじゅう》の相談をしに来た処だものですから、あはははは。」
 ひたと胸に、顔をうずめて、泣きながら、
「おほほほほほほ。」

       五

「旦那さん、そんなら、あの、私、……死なずと大事ございませんか……」
「――言うだけの事はないよ、――まるッきり、お前さんが慾《よく》ばかりでだましたのでみた処で……こっちは芸妓《げいしゃ》だ。罪も報《むくい》もあるものか。それに聞けば、今までに出来るだけは、人情も義理も、苦労をし抜いて尽しているんだ。……勝手な極道《ごくどう》とか、遊蕩《ゆうとう》とかで行留りになった男の、名は体《てい》のいい心中だが、死んで行《ゆ》く道連れにされて堪《たま》るものではない。――その上、一人身ではないそうだ。――ここへ来る途中で俄盲目《にわかめくら》の爺《とっ》さんに逢って、おなじような目の悪い父親があると言って泣いたじゃないか。」――

 掛稲《かけいね》、嫁菜の、畦《あぜ》に倒れて、この五尺の松に縋《すが》って立った、山代の小春を、近江屋へ連戻った事は、すぐに頷《うなず》かれよ
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