よ。」
と言ってまた箸《はし》を付けた。
「そりゃ可《い》い、北国《ほっこく》一だろ。」
と洒落《しゃれ》でもないようで、納まった真顔である。
「むむ、……まあ、そうでもないがね。」
と今度は客の方で顔を見た。目鼻立は十人並……と言うが人間並で、色が赤黒く、いかにも壮健《じょうぶ》そうで、口許《くちもと》のしまったは可《い》いが、その唇の少し尖《とが》った処が、化損《ばけそこな》った狐のようで、しかし不気味でなくて愛嬌《あいきょう》がある。手織縞《ておりじま》のごつごつした布子《ぬのこ》に、よれよれの半襟で、唐縮緬《とうちりめん》の帯を不状《ぶざま》に鳩胸に高くしめて、髪はつい通りの束髪に結っている。
これを更《あらた》めて見て客は気がついた。先刻《さっき》も一度その(北国一)を大声で称《とな》えて、裾短《すそみじか》な脛《すね》を太く、臀《しり》を振って、ひょいと踊るように次の室《ま》の入口を隔てた古い金屏風《きんびょうぶ》の陰へ飛出して行ったのがこの女中らしい。
ところでその金屏風の絵が、極彩色の狩野《かのう》の何某《なにがし》在銘で、玄宗皇帝が同じ榻子《いす》に、楊貴妃
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