龍刀、張飛の蛇矛などが嬉しくつて堪らない。勿論《もちろん》其時分、雑誌は知らず新聞には小説があるものか無いものか分らぬ位。処が其中に何んですネ。英語を教はらうと、宣教師のやつて居る学校へ入つたのです。さうするとその学校では郵便報知新聞を取つて居た。それに思軒さんの瞽使者《こししや》が毎日々々出て居ます。是はまた飛放れて面白いので、こゝで、新聞の小説を読むことを覚えました。また病つきで課業はそつちのけの大怠惰《おほなまけ》、後で余所《よそ》の塾へ入りましたが、又|此《この》先生と来た日にや決して、然《さ》う云ふものを読ませない。処が、例の難波戦記を貸して呉《く》れた友人ね、其お友人《ともだち》に智慧を付けられて貸本屋へ借りに行くことを覚えたのです。併し塾に居るんですから、ナカ/\きびしくつて外出をさせません。それを密《ひそか》に脱出しては借りに行くので、はじめは一冊づゝ借りて来たのが、今度読馴れて来ると読方が早くなつて、一冊や二冊持つて帰つた所が直に読んで仕舞ふから、一度に五冊、六冊、一晩にやツつける。其時ザラにアヽ云ふ新版物から、昔の本を活版に直したものを無暗に読んだ。どんな物を読んだ
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