てをつけて、鎧《よろひ》を颯《さつ》と投げかける。其の鎧の、「揺《ゆら》ぎ糸の紅は細腰に絡《まと》ひたる肌着の透《す》くかと媚《なまめ》いたり。」綺麗ぢやありませんか。おつなものは岡三鳥の作つた、岡釣話、「あれさ恐れだよう、」と芸者の仮声《こわいろ》を隅田川の中で沙魚《はぜ》がいふんです。さうして釣られてね、「ハゼ合点のゆかぬ、」サ飛んだのんきでいゝでせう。
えゝ、此のごろでも草双紙は楽みにして居ります。それに京伝本なんぞも、父《おやぢ》や母のことで懐しい記念が多うございますから、淋しい時は枕許に置きますとね。若菜姫なんざ、アノ画の通りの姿で蜘蛛《くも》の術をつかふのが幻に見えますよ。演劇《しばゐ》を見て居るより余ツ程いゝ、笑つちやいけません、どうも纏らないお話で、嘸ぞ御聴苦しうございましたらう。
[#地から2字上げ](明治三十四年一月)
底本:「現代日本文學大系 5 樋口一葉・明治女流文學・泉鏡花集」筑摩書房
1972(昭和47)年5月15日初版第1刷発行
1987(昭和62)年2月10日初版第13刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5
前へ
次へ
全15ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング