なく懷しい人柄に感じさせた。が、その表情、その物ごしには何處かに物寂しい影が差してゐるやうに思はれるのであつた。
「ガスボデイン。名前だよ。君のネエムだよ……」と、醉ひどれ男は熟柿のやうな顏を振り立てながら、ひつつこく話し掛けた。が、老人はその顏を見詰めて、詞もなく微笑するばかりだつた。
「ちえつ、分らねえんだな……」と、男は卑しい身振を示して、舌打ちした。
「何だか、ロシヤ人らしいぢやないか……」と、私はKを顧みて囁いた。
「さうらしいね……」と、Kも頷いた。
「君、君。どうしたんだい、あの西洋人は?」と、やがてKは果物を運んで來た給仕女に、小聲に訊ねた。
「あの人、ロシヤ人なのよ。もう二三度入らしたけど、英語も日本語もまるつきりお分りにならないんでせう。御註文の時ずゐ分困るわ……」給仕女は輕く眉根を寄せて答へた。
「やつぱりさうだ……」と、Kは私を振り返つた。私は頷いて、直ぐ給仕女に云つた。
「ねえ君。あすこにゐる人に名前のことはイイミヤつて云ふんだつて教へて上げ給へ……」ロシヤ人と聞くと急にそそり立てられた小さな好奇心が、私に生覺えのロシヤ語を吐き出させた。
「イイミヤ……」給仕
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