く》四|面《めん》な取締《とりしまり》などもとよりあらう筈《はず》もなく、それは字義通《じぎどほ》りの不夜城《ふやじやう》だ。人間《にんげん》は動《うご》く。燈灯《ともしび》は映發《えいはつ》する。自動車《じどうしや》は行《ゆ》く。黄包車《ワンポオツ》は走《はし》る。そして、この東洋《とうやう》の幻怪《げんくわい》な港町《みなとまち》はしつとりした夜靄《よもや》の中《なか》にも更《ふ》け行《ゆ》く夜《よ》を知《し》らない。やがて歩《ある》き疲《つか》れてふらりとはひりこんだのが、と或《あ》る裏通《うらどほり》の茶館《ツアコブン》だつた。
窓際《まどぎは》の紫檀《しだん》の卓《たく》を挾《はさ》んで腰《こし》を降《おろ》し、お互《たがひ》に疲《つか》れ顏《がほ》でぼんやり煙草《たばこ》をふかしてゐると、女《をんな》が型通《かたどほ》り瓜子《クワスワ》と茶《ツア》を運《はこ》んでくる。一人《ひとり》は丸顏《まるがほ》、一人《ひとり》は瓜實顏《うりさねがほ》、其《それ》に口紅《くちべに》赤《あか》く、耳環《みゝわ》の翡翠《ひすゐ》が青《あを》い。支那語《しなご》の達者《たつしや》な友人《い
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