《かくか》の昇天《しようてん》の御勢《おんいきほひ》にはわたくし共《ども》まるで木《こ》つ葉《ぱ》微塵《みぢん》の有樣《ありさま》でございましたな。」
「ふふふふ、弱《よわ》いなうお前等《まへら》は……」
 定《さだ》めてあの張作霖《ちやうさくりん》がそんな風《ふう》に相好《さうかう》を崩《くづ》してのけぞり返《かへ》つただらうと思《おも》ふと、その昔《むかし》馬賊《ばぞく》の荒武者《あらむしや》だつたといふ人《ひと》のよさ[#「よさ」に傍点]も想像《さうざう》されて、無殘《むざん》な爆彈《ばくだん》に血染《ちぞ》められたと言《い》ふその最後《さいご》が傷《いた》ましくも感《かん》じられはしないだらうか?
 張作霖《ちやうさくりん》と言《い》はず、如何《いか》に支那人《しなじん》が麻雀《マアジヤン》を好《す》くかといふことはいろいろ話《はなし》に聞《き》くが、驚《おどろ》くことは彼等《かれら》二|日《か》も三|日《か》も不眠不休《ふみんふきう》で戰《たゝか》ひつづけて平氣《へいき》だといふことだ。僕《ぼく》、この遊《あそ》びを覺《おぼ》えてから足掛《あしか》け五|年《ねん》になるが、食事《しよくじ》の時間《じかん》だけは別《べつ》として戰《たゝか》ひつづけたレコオドは約《やく》三十|時間《じかん》といふのが最長《さいちやう》だ。それはたしか去年《きよねん》の春頃《はるごろ》、池谷《いけのや》信《しん》三|郎《らう》の家《うち》でのことで、前日《ぜんじつ》の晝頃《ひるごろ》はじめて翌日《よくじつ》の夕方過《ゆふがたす》ぎまで八|圈戰《けんせん》を五|回《くわい》ぐらゐ繰《く》り返《かへ》したやうに思《おも》ふが、終《をは》りには頭《あたま》朦朧《もうろう》として體《からだ》はぐたぐたになつてしまつた。そして、二三|日《にち》その疲《つか》れの拔《ぬ》け切《き》らないのに今更《いまさら》自分《じぶん》の愚《おろか》さを悔《く》いたやうな始末《しまつ》だつたが、支那人《しなじん》が二|日《か》も三|日《か》も戰《たゝか》ひつづけて平氣《へいき》だといふのは、一《ひと》つは確《たしか》に體力《たいりよく》のせゐに違《ちが》ひない。が、もう一《ひと》つは氣質《きしつ》の相違《そうゐ》によるものだらう。言《い》ひ換《か》へると、支那人《しなじん》は技法《ぎはふ》の巧拙《かうせつ》は別問題《べつもんだい》として、可成《かな》り自由《じいう》に延《の》び延《の》びと麻雀《マージヤン》を遊《あそ》び樂《たの》しむからではあるまいか?
 僕《ぼく》思《おも》ふに、いつたい僕等《ぼくら》日本人《にほんじん》の麻雀《マージヤン》の遊《あそ》び方《かた》は神經質《しんけいしつ》過《す》ぎる。或《あるひ》は末梢的《まつせうてき》過《す》ぎる。勿論《もちろん》技《ぎ》を爭《あらそ》ひ、機《き》を捉《とら》へ、相手《あひて》を覘《ねら》ふ勝負事《しようぶごと》だ。技法《ぎはふ》の尖鋭《せんえい》慧敏《けいびん》さは如何《いか》ほどまでも尊《たふと》ばれていい筈《はず》だが、やたらに相手《あひて》の技法《ぎはふ》に神經《しんけい》を尖《と》がらして、惡打《あくだ》を怒《いか》り罵《のゝし》り、不覺《ふかく》の過《あやま》ちを責《せ》め咎《とが》め、自分《じぶん》の好運《かううん》衰勢《すゐせい》にだらしなく感情《かんじやう》を動亂《どうらん》させるなどは甚《はなは》だしばしば僕《ぼく》のお眼《め》に掛《か》かることだが、そして、僕《ぼく》と雖《いへど》も敢《あ》へてそれが全然無《ぜんぜんな》いとは言《い》はないが、その如何《いか》にもあくせくした感《かん》じは常《つね》に僕《ぼく》をして眉《まゆ》を顰《ひそ》めしめる。言《い》ひ換《か》へると、どうもゆとり[#「ゆとり」に傍点]が無《な》い、棘棘《とげとげ》し過《す》ぎる。だから、長《なが》い戰《たゝか》ひに堪《た》へ得《え》ず、結局《けつきよく》心身共《しんしんとも》にくたくたに疲《つか》れ切《き》つてしまふのだらうが、思《おも》ふに、支那人《しなじん》の麻雀戲《マージヤンぎ》には彼等《かれら》の風格《ふうかく》に存《そん》するやうな悠悠味《いういうみ》がどこかにあるのではなからうか?

     3

 一|時《じ》、これは麻雀界《マージヤンかい》の論議《ろんぎ》の的《まと》になつたことだが、麻雀《マージヤン》が技《ぎ》の遊《あそ》びといふより以上《いじやう》に運《うん》の遊《あそ》びであることは爭《あらそ》へない。實際《じつさい》、運《うん》のつかない時《とき》と來《き》たらこれほど憂欝《いううつ》な遊《あそ》びはないし、逆《ぎやく》に運《うん》の波《なみ》に乘《の》つて天衣無縫《てんいむほう》に牌《パイ
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