》の扱《あつか》へる時《とき》ほど麻雀《マージヤン》に快《こゝろよ》い陶醉《たうすゐ》を感《かん》じる時《とき》はない。自然《しぜん》、そこが麻雀《マージヤン》の長所《ちやうしよ》でもあり短所《たんしよ》でもあつて、どつちかと言《い》へば玄人筋《くろうとすぢ》のガンブラアには輕蔑《けいべつ》される勝負事《しようぶごと》のやうに思《おも》はれる。けれど、實際《じつさい》はそれこそ麻雀《マージヤン》が人達《ひとたち》を魅惑《みわく》する面白《おもしろ》さなので、誰《だれ》しも少《すこ》しそれに親《した》しんでくるといつとなくその日《ひ》その時《とき》の縁起《えんぎ》まで擔《かつ》ぐやうになるのも愉快《ゆくわい》である。そして、その點《てん》でとりわけ物事《ものごと》に縁起《えんぎ》を擔《かつ》ぐ支那人《しなじん》が如何《いか》に苦心《くしん》焦慮《せうりよ》するかはいろいろ語《かた》られてゐることだが、全《まつた》く外《ほか》のことでは如何《いか》なる擔《かつ》ぎ屋《や》でもない僕《ぼく》が麻雀《マージヤン》の日《ひ》となると、その日《ひ》の新聞《しんぶん》に出《で》てゐる運勢《うんせい》が變《へん》に氣《き》になる。で、たとへば「思《おも》はぬ大利《たいり》あり」とか「物事《ものごと》に蹉跌《さてつ》あり、西方《せいはう》凶《きやう》」などといふ、考《かんが》へれば馬鹿《ばか》らしい暗示《あんじ》が卓子《テーブル》[#ルビの「テーブル」は底本では「テー ル」]を圍《かこ》む氣持《きもち》を變《へん》に動《うご》かすこと我《われ》ながらをかしいくらゐだ。
滑稽《こつけい》なのは、日本《にほん》の麻雀道《マージヤンだう》のメツカの稱《しよう》ある鎌倉《かまくら》では誰《だれ》でも奧《おく》さんが懷姙《くわいにん》すると、その檀那樣《だんなさま》がきつと大當《おほあた》りをすると言《い》ふ。所《ところ》が、何《なん》でも久米正雄夫人《くめまさをふじん》自身《じしん》の懷姙中《くわいにんちう》の運勢《うんせい》の素晴《すばら》しかつたことは今《いま》でも鎌倉猛者連《かまくらもされん》の語《かた》り草《ぐさ》になつてゐるくらゐださうだが、懷《ふところ》に入《はい》つてふとるといふ八卦《はつけ》でもあらうか? 少少《せうせう》うがち過《す》ぎてゐて、良人《りやうじん》久米正雄《くめまさを》ならずとも、思《おも》はず微苦笑《びくせう》せずにはゐられない。いつたい誰《だれ》でも運勢《うんせい》が傾《かたむ》いてくると、自然《しぜん》とじたばたし出《だ》すのは人情《にんじやう》の然《しか》らしむる所《ところ》だが、五|段《だん》里見※[#「弓+享」、第3水準1−84−22]《さとみとん》は紙入《かみいれ》からお守札《まもりふだ》を並《なら》べ出《だ》す、四|段《だん》古川緑波《ふるかはりよくは》はシガアレツト・ライタアで切《き》り火《び》をする。三|段《だん》池谷《いけのや》[#ルビの「いけのや」は底本では「いけやの」]信《しん》三|郎《らう》は骰子《サイツ》を頭上《づじやう》にかざして禮拜《らいはい》する。僕《ぼく》など麻雀《マージヤン》はしばしば細君《さいくん》と口喧嘩《くちけんくわ》の種子《たね》になるが、これが臨戰前《りんせんまへ》だときつと八|卦《け》が惡《わる》い。
「今日《けふ》は奇數番號《きすうばんがう》の自動車《じどうしや》には絶對《ぜつたい》に乘《の》らないぞ。」
「向《むか》うに着《つ》くまで猫《ねこ》を見《み》なけりや勝《かち》だ。」
などと年甲斐《としがひ》もなく男《をとこ》一|匹《ぴき》がそんな下《くだ》らないことを考《かんが》へたりするのも、麻雀《マアジヤン》に苦勞《くらう》した人間《にんげん》でなければ分《わか》らない味《あぢ》かも知《し》れない。
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「知《し》らない支那人《しなじん》と麻雀《マアジヤン》を遊《あそ》ぶのはよつぽど注意《ちゆうい》しなければいけない。」
とは或《あ》る向《むか》うの消息通《せうそくつう》が僕《ぼく》に聞《き》かせた詞《ことば》だが、ばくち[#「ばくち」に傍点]好《ず》きで、またばくち[#「ばくち」に傍点]の天才《てんさい》の支那人《しなじん》だけに麻雀道《マアジヤンだう》に於《おい》ても中《なか》には恐《おそ》ろしい詐欺《さぎ》、いんちき[#「いんちき」に傍点]を企《くはだ》てるものが可成《かな》りあるらしい。そして、その仕方《しかた》もいろいろ聞《き》かされたが、僕《ぼく》が如何《いか》にも支那人式《しなじんしき》だなと一|番《ばん》感心《かんしん》し、且《か》つ恐《おそ》るべしと思《おも》つたのは、百三十六|個《こ》もある麻雀牌《マアジヤンパイ》の背中《せな
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