凭りながら烟るやうな雨脚を[#「雨脚を」は底本では「兩脚を」]通して見える、向う側の病室をぢつと眺めてゐた。と、私はその二階の病室の右手から三番目の窓に凭つて、同じやうに庭を眺めてゐる若い女をふと見附けたのであつた。
「やつぱり患者だな。新しくはいつて來たのか知ら……」と、私は一人呟きながらその女の方をぢつと見てゐた。と、女も私に氣附いたやうにちらりと視線を向けて、直ぐ芝生の方へ俯向いてしまつた。
「何の病人だらう……」と、その刹那にふと眼に殘つた女のほつそりと痩せた、青白い、如何にも物寂しい感じの輪廓を持つた顏を思ひ浮べながら、私は考へた。やがて、女は靜に身を飜して、白い窓掛《カアテン》の裏に隱れてしまつた。私はそのうしろ姿に何となく暗い影を感じた。そして、武井さんが或る時云つた「お逝くなりになる御病人は何だか初めの氣持で分りますわ……」と云ふ詞を思ひ出して、不吉な豫感にはつと胸を衝かれた。
私は變に暗い氣持にされた。そして、そのまままた寢臺の上に横になりながら、暫く白い天井を見詰めてゐた。が、不思議にその刹那の女の顏の印象が頭の中に浮び上つて、ひよいと胸を掠めた不吉な豫感が拭へな
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