んに助けられながら起き上つて、私は寢臺の下に降りてみた。直ぐひよろひよろとひよろけて、私は尻もち[#「もち」に傍点]をつきさうになつた。私はあわてて寢臺に掴まつた。武井さんが背後から背中を支へてくれた。
「まるで赤んぼですね……」と、私は苦笑しながら、武井さんを振り返つた。
が、それでもそんな事を續けて行く内に、私の足元は一日一日と固まつて行つた。そして、寢臺の縁に掴まりながら一歩一歩と歩いて行く事に、子供のやうな興味を覺えるやうになつた。また時には窓際の曲木の椅子に腰掛けて、庭の景色や、向う側の病室の窓の中をぼんやり眺めてゐる事が出來るやうになつた。
その頃からもう梅雨だつた。陰氣な日が多くなつた。ねり絲のやうなしめやかな雨が青桐の葉や、芝生や、樹木の若葉をしつとりと濡らして、朝から夜がくるまで降り續けてゐる事があつた。誰も見舞ひにくる者もない、さうした日の午後など、私は病後のうら寂しい氣持で窓際の椅子に凭りながら、靜かな雨脚を[#「雨脚を」は底本では「兩脚を」]眺め暮してゐるのであつた。
或る日の午後だつた。武井さんが草花を買ひに行つた留守に、私は一人寢臺を靜に降りて、椅子に
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