い顏の女の病室の窓から暗い顏で庭を見降ろしてゐるその夫の姿を珍らしく見附けた。そして、窓臺の上には氷嚢や白い布が三つ四つ干し並べてあるのに氣が附いた。その數日、病院外の事柄や退院後の生活などに心持を惹きつけられてゐた私は、その女の事をすつかり忘れてしまつてゐた。で、その時ひよいとその夫の暗い、憂愁に包まれたやうな顏附を見ると、私は手術後の女の容體が人事ならず氣遣はれ出したのだつた。
「やつぱりいけないんぢやないだらうか?」と、その時またカアテンの降されてしまつた窓を見詰めながら、私は考へた。
退院がいよいよ明日と云ふ日だつた。母や妹達はその午後新しい單衣物などを持つて訪ねて來た。部屋の中には明るい感じが漲つた。私の胸はただ歡びに躍つてゐた。そして、母が包みきれない嬉しさを顏に表しながら武井さんに長い看護の禮詞を述べてゐるのや、武井さんがしみじみした聲で母に祝ひ詞を返してゐるのにぢつと耳を傾けてゐた。が、母も武井さんもさうした詞を交しながら、眼は涙ぐんでゐるのだつた。
夕方もう薄暗くなつてから母達は歸つて行つた。私の食膳をさげると、武井さんも自分の食事をしに行つた。私はぽつかりと電氣
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