の點いた靜かな部屋の窓際に、何時ものやうに曲木の椅子に凭りながら凉しい風に吹かれてゐた。生命を救はれた病院の最後の夜……そんな事がふと考へられた。と、抑へきれない歡びの心の底にも何となく涙ぐまれるやうな[#「涙ぐまれるやうな」は底本では「涙ぐまれやうな」]、しめやかな氣持が湧き上つて來た。が、さうした氣持が何故湧き上つてくるかは、私にははつきり分らなかつた。
夜の暗い幕はだんだんに病院の内外に擴がつて來た。そして、その暗さの中に向う側の八つ並んだ病室の窓の明りがくつきりと見え出した。が、ふと見上げると、その二階の右から三番目の窓には昨日のやうに白いカアテンが降されてゐて中の樣子は見られないのだつた。私は寢臺に横はつてゐるあの女の青白い顏、それをぢつと見詰めてゐるに違ひないその夫の憂ひげな顏を思ひ浮べてみた。と、不意にまた不吉な豫感が頭の中を掠めて行つた。私は思はずぎよつとして、深い紺青に澄みきつた星空を見上げた。
「ええ、今夜中は持つまいつてお話ですわ……」
その女の容體に就いて聞いた時、武井さんはかう云つて沈んだ眼を伏せた。私は退院と云ふ明るい氣持もすつかり失つて、カアテンの締ま
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