は型の如く迷宮に入りかけた。一人の探偵があつた。彼は實際科學の知識に明るかつた。ある朝、後日の證據《しようこ》のために事件突發の日のままになつてゐたその室にはひつてみた。窓から明るい光線が差し込んでゐた。その光線の落ちた處《ところ》には、水を盛つた硝子器があつた。そしてその水面に落ちた光線の反射はちようどピストルの載せてあつた小卓の上に強い焦點《せうてん》を印《いん》してゐた。事件は解決されたのである。つまり紳士は自用のピストルを前夜何氣なくその小卓の上に置いて、その朝その銃口から飛び出る彈丸の射程直線上の椅子に腰かけて新聞を讀んでゐたのである。光線の強い焦點《せうてん》はピストルの裝彈篋《さうだんきやう》を熱した。そして、自働的に彈丸は發射された。紳士は實に微妙な偶然と偶然の吻合《ふんがふ》の中で、實に不幸な死を遂げたのであつた。
この不思議な事件の犯人は何者だらう? それは私達が體《からだ》にあびて時に雀躍《じやくやく》する處《ところ》の、あの美しい太陽の光線ではないか? 光線を捕縛する探偵! 若い讀者諸君よ、この材料に依つて何か面白い探偵小説を作つてみては如何《いかゞ》?
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