ふやうに白い泡沫《しぶき》を立てたりした。
 灣は次第に海峽に開いて、靄にかすんでゐた、向う岸の當別の岬が漸くはつきり見え出した。少し崖が崩れて、赤土の覗いてゐるあたりから、くすんだ色の低い灌木の生えた丘が遠く續いてゐる。その海峽を向いた岬の端に燈臺の建物が、ほの白く浮いてゐる。すべてが單調で薄暗いやうなそのあたりの景色が私を倦きさせた。
 氣が附くと船客の人達も皆默つてしまつて、立つたのも坐つたのも腰掛けたのも氣の拔けたやうな顏をして海面を眺めてゐる。機關の響が鈍いリズムを打つのが聞えて來た。長い長い航海を續けてゐるやうな頽廢の氣持が其處に漂つてゐた。
 私は空を見上げた。
 鈍色の雲に少し明るみが差して、うすれ日が幽かに洩れて來た。そして海峽の波がその明るみを映して銀色に光り始めた。ぢつと見詰めてゐると、それが遠くなつたり近くなつたりする。雲が少しづつ動いて行くのである。
「あの陰ですよ。ほら、建物の端が見えるでせう。」と、Kさんが私の側に近寄つて來て、岬の上を指差した。大きな赤煉瓦の建物が岬に續く高い丘の斜面に見えた。それは周圍の景色と餘に不調和に目立つてゐた。
 灣の口を横切つ
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