に耽つてゐた。彼は重たげに顏を擧げて、私達の姿に Pensive な瞳を投げた。そして、幽かに禮に答へると、また靜かに眼を頁《ペイジ》の上に落した。また一人の異國の修道士は僧衣を引き摺りながら、足音もなく這入つて來た。彼は聖像の前に嚴かに十字を切ると、金色の燭臺を降して、それを兩手に支へたまま、人無きが如くに私達の眼の前を去つて行つた。
「何と云ふ人達だらう……」と、私は思つた。
彼等の顏には少しの表情の動きも現れなかつた。その態度には冷たさを感じるまでの落ち著きがあつた。そして、その姿には何等の人としての親しみを感じさせるものがなかつた。若し彼等が動かなかつたならば彫像のやうに見えたかも知れない。私は明かに自分が特殊の世界の中に立つてゐることを意識した。彼等と自分との間には大きな淵がある。淵を越えて彼岸に達しなければ、私には彼等の眞が分らない。また彼等に親しみが感じられない。然し、この淵を越える爲めには私は自分の人間性を失つてしまはなければならないのではあるまいかと思つた。少くとも自分の眞底から流れて、すべての人を愛しすべての人に親しみたいと云ふ感情を拒否してしまはなければならない
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