秋の訪《おとづ》れ速かな北國の寂しい朝の姿であつた。港を包む遠近《をちこち》の山の頂には冷たい色の雲が流れて、その暗い陰影に劃られた山山の襞には憂欝と冷酷の色が深く刻まれてあつた。北國の旅人はその自然に對して何等の親しみも温みも感じることが出來ない。時には世に反く孤高の聖者の如く、時には荒み果てた心冷かな廢人の如く、北國の自然は常に彼と離れて立つてゐる。彼は孤獨を感じる。そして自然と人との間に近づき難いやうな壁のあることを意識する。美しさがあつても、輝きがあつても、それは大理石の刻像のやうに血がない熱がない。山を仰いでも海を眺めても、北國の旅人の心に迫るものは、常に云ひ知れぬ空虚と寂寞の感じである。
私は昨夜の雨に濡れた船首の甲板の上に立ちながら、そんなことを考へてゐた。そして所在なきままに煙草に火を點《つ》けては、しきりなく吸つた。
船は何時しか埠頭を遠く離れてゐた。振り返ると、灰色の秋空の下に、函館の町が一目に見える。海から眺める町の感じは何處となく Exotic で、あの古めかしい鉛色の瓦屋根のないことが日本の町らしい親しみを薄くする。然し右手の臥牛山の中腹から、やや急な傾斜
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