に押し當てて、冷たい觸感を樂しみながら、私は舌苦い煙草を物憂い氣持で吸ひ續けてゐた。車室の中は政黨屋の話聲も途絶えて變にひつそり鎭まつてゐた。そして、車輪の響のみ高く何分間かが過ぎて行つた。
「くす、くす……」
堪へ忍んで堪へきれなくなつたやうな低い笑聲がふと私の耳に響いた。
「こりややりきれない……」
幽かな呟きがまた聞えた。
誘はれて思はずひよいと振り向くと、私の眼は金縁眼鏡の政黨屋の卑しく笑ひ忍んだ顔とぶつかり合つた。同時に、同じやうに笑ひ忍びながら女の寢姿の上に淫らな視線を注いでゐる赤鼻と、和服の男の顔に、私はふと氣が附いた。そして、何氣なく二人の視線の行手に眼を向けた時、私ははつとして顏を反けた。反けながら、また思はず女の亂れた寢姿を見返つた。が、折り立てた膝を覆つてゐる着物の裾が兩方へ垂れ下がつて、はだかつたその間にのぞいてゐる刺戟的な赤の友禪の長襦袢、そして、そのまた間から車體の搖れる度毎に……。刹那に其處までまざまざと眼に留めてしまつた時、私の胸を襲つたのは云ひ知れぬ不快な羞恥の感情であつた。私は無意識に顏を赧らめながら、視線を膝に遁れ伏せてしまつた。
「と
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