に何かを車掌に答へた。車掌はそれを手帳に書き留めた。
「どうぞ皆さん、くれぐれも御注意下さいますやう……」
やがて車掌はかういひ殘して、ボオイを伴ひながら車室を出て行つた。三人は悄氣返つた樣子でそのうしろ姿を見送つてゐた。
車内は暫く變に鎭まり返つた。
「とんだ目にお會ひでしたな……」
中年の商人が禿げた頭を振り立てながら、ふと遠くから聲かけた。
「いや、災難です。――然し、油斷のならない奴がゐるものですな。」
赤鼻が同情を求めるやうに相槌打つた。
「さやうさ、私もどうも怪しい奴だとは思つてましたがね。」
商人はいひ重ねた。
三人の方に我知らず氣を取られてゐた私は、その詞に暗示されてふと女の方を振り返つた。と、知つてか知らずか、さつきまでの醜體にも恬然とした表情で、何時の間にかきちんと身仕舞をととのへて、女は腰掛の上に坐り込んでゐた。そして、冷笑を含んだやうな視線をじろりじろりと政黨屋達の顏に注いでゐた。――氣を呑まれて、私はちよつと息もつけないといつた氣持だつた。
「紙入や時計はどうでも好いが、さしづめ困るのは手鞄だ……」
赤鼻はふと和服を振り返つた。
「困
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